スペイン(マドリード)留学の体験談やエピソードに興味がある方に向けた記事です。
こんにちは、アメリカ駐在員のユキヒョウ。( @Yukihyounet)です。
今回お話しするのは、若き日のユキヒョウ。がスペイン留学時代に体験したエピソード。
当時の私のホームページ(既に閉鎖済み)に記載されていた原文をほぼそのまま紹介します。
投稿の日付は2000年11月15日。
私がスペインにいたのが1999年7月から2000年8月までなので、帰国後の回想録。
20代前半の未熟な若者の、溢れんばかりの若さと躍動感を少しでも感じていただければ幸いです。
スペイン留学 バスの中での出来事 はじめに
今(2018年)から約18年前。
新たなミレニアムの幕開けを目前に控え、世界中の至るところでカウントダウンのイベントが開かれる一方、爆発的なコンピュータの普及と盲目的なデジタル化への移行を背景とした所謂(いわゆる)2000年問題が社会不安を煽っていた頃、私はスペインのマドリードにいた。
東京・四ツ谷の私立大学でイスパニア語(スペイン語)を専攻していた私は、3回生の夏から約1年間、マドリードにある教皇立大学において通訳・翻訳学を学んでいたのだ。
当時はちょうどインターネットの黎明期から成長期に入る過渡期でヤフーをヤッホー!と真面目な顔で言うような奴はさすがに少なくなっていたが、ネットの接続方法はダイヤルアップが主流、という時代だった。
楽天がネット上のショッピングモール「楽天市場」のサービスを開始し、オンラインショッピングが少しづつ普及してきたのがちょうどこの頃である。
今やコミュニケーションツールとしてあらゆる世代にとって「常識」となっているソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の片鱗すらない、牧歌的な時代。
大学の友人の影響で比較的早い時期からネットに興味を持った私は、無料ドメインで自身のホームページを立ち上げ、留学時代の近況を主に日本の友人達に向けて発信していた。
今から考えるとギャグにしかならないようなロースペックのノートパソコン(VAIO)を後生大事に胸に抱え、時間を見つけては電話局に行きダイヤルアップでネットに接続する。
AOLの「You got mail!」の音声と共にサーバーに溜まったメールをまとめて受信。
オフラインで作成した返信メールを送信トレイに溜めておき、作業が終わったら改めてネットに接続して一気に送信する。
その頃のスペインにおける一般的なネット環境はそんな感じだった。
パソコンを持たない学生達は大学のPCコーナー、またはネットカフェで「順番待ちで」ネットサービスを利用する。
当時の携帯電話はキャリア内のショートメールと音声通話のみ。
スマホの登場は2007年に「初代iPhone」が発売されるまで待たなければいけない。
もちろん、その時代にWi-Fi など存在していないことは言うまでもない。
バスの中での出来事
マドリー留学時代の話である。
オレは大学から家まで地下鉄で移動する事が多かったのだが,晴れた日や時間に余裕のある日はよくバスに乗って通学していた。
スリやちょっと危ない人が多い地下鉄よりも,市内を縦横無尽に走っているバスに乗ったほうがずっと安全だし,窓の外の風景を眺めているだけで充分楽しい。
街の中を,まるで潜水艦に乗って移動しているような錯覚にさえ陥ることもある。
見慣れた街のはずなのに,いつもよりもちょっとだけ高い目線で眺めるだけでまったく違った世界を散策しているようだ。
そんな気分にさせてくれるマドリーのバスが,オレは結構気に入っていたのである。
その日もとても晴れた日だった。
秋風が気持ちよく,街行くおしゃべり好きのマドリーの若者達の波が,バス停までオレの足を運ばせた。
特にバスに乗りたかった訳でもなかったが,別に急いでる用件もなかったので,「ぼーっ」としながら遠目にバスを待ち,時折カーラジオから漏れ聞こえてくる当時流行りの曲に耳を傾けていた。
バス停のすぐ後ろにあるエル・コルテ・ イングレスのショーウィンドウには,無機質な笑顔で遠くを見つめるマネキン達が,最新の秋物の服を着せられて不機嫌そうに突っ立ている。
『やっぱりなんとなくアカ抜けないコーディネイトだなぁ・・・。』
そんな事を一人で考えていると,間もなく目の前にバスが停車した。
大きな荷物を抱えている老紳士に道を譲ってから乗車する。
車内はそれほど込んではいない。
いい感じだ。
席も疎(まば)らだが2・3空いている。
この時点でオレは,これからマドリー留学時代で一番恥ずかしい思いをする羽目になるなんて考えてもいなかった。
※この話をするには,『あるスペイン語の単語(動詞)』に関する知識が必要なのだが, それをはじめに言ってしまうと面白くなくなってしまうので後々説明する事にしよう。
綺麗なスペイン人のお姉さんが一人,通路側に座っていた。
日本じゃファッション雑誌の中でしか見たことがないような綺麗なお姉さんである。
ちょうど隣の窓側の席が空いていたから声を掛けようとした。
・・・『席を詰める』・・・
この程度の単語ならオレにも分かる。
無視されたらどうしよう,なども考えたが,モンクロア辺りになると学生がたくさん乗り込んでくるので勇気を出して言ってみた。
『Hola, te puedes correr un poco para mi, por favor?』
『すいません,少し席を詰めてくれませんか?』
少し声が上ずってしまったが,完璧なスペイン語である。
でも彼女の様子がどうもおかしい。
なにやらニヤニヤしてオレの顔を見ているのだ。
改めて見ると,本当に素敵な女性である。
どうしてだろう?
きちんと辞書にまで載ってるスペイン語で話し掛けているのに・・・。
気が付くと 周りの人達も笑っている。
オレには何がなんだか分らない。
理由もわからず当惑を隠せないでいるオレ。。
『Que!? Yo sola??』
『え!?私ひとりで??』
重たい荷物でもあるのかな?それとも怪我でもしてるのだろうか?と思いながら,オレは答えた。
『Pues, si quieres, te ayudo, eh?』
『あの,よろしければお手伝いしますけど・・・。』
そうオレが言い放った瞬間,車内全体が大笑い!
慌てふためくオレ!
顔は真っ赤に!
でもどうして いいのか分らない!
一体何が起こったのだろうか?
そうこうしてるうちに彼女は立ち上がり,オレが これまで22年間生きてきたなかでも一番の笑顔で
『Si!? En serio!??』
『え!?あなた本気で言ってるの!??』
『Pues, si. Con mucho gusto.』
『あ,はい。よろこんでお手伝いしますけど。』
『(笑)!! Muchas gracias, pero me bajo aqui. Chao!』
『(笑)!! どうもありがとう。でも私ここで降りるから。またね!』
と言って降りていってしまった。。
車内では未だに人々がオレの顔を覗き込んでニヤニヤしている。
一体なんなのだ?
オレが困った顔をしていると隣にいた品のよさそうなおじさんが訳を説明してくれた。
スペイン語で『席を詰める』という単語,『Correrse』はここスペインにおいては
『女の人が〇交渉において絶頂に達する。簡単に言うとイク』
という意味になって しまうと言うのである。
ん。。?
んんッ!?
おいおい,ちょっと待ってくれ!!
そうだとすると,オレがさっき車内で そのメチャメチャ綺麗なお姉さんと交わした会話は次のようになってしまうではないか!!!
オレ 『すいません,ちょっとイッテくれませんか?』 (真剣に人に頼む態度)
美女 『え!?私ひとりで??』 (ちょっと驚きながらも笑顔で)
オレ 『あの,よろしければお手伝いしますけど・・・。』 (ちょっと当惑気味)
美女 『え!?あなた本気で言ってるの!??』 (ニヤニヤしながら)
オレ 『あ,はい。喜んでお手伝いしますけど。』 (何がなんだかわからないが親切心で)
美女 『(笑!!)どうもありがとう。でも私ここで降りるから。またね!』 (小悪魔的笑顔)
つまり,オレは席を詰めて欲しかっただけなのにとんでもない事を要求していたのである!!
しかも バスの中で!
さらに喜んでお手伝いしますなど・・・。
参った,これにはマジで参った!!
辞書には しっかりと『模範文』としてのっていた文章が,とんでもない方向へと展開してしまったのである!
公衆の面前でオレがどれだけ恥ずかしかったことか,簡単に想像できるであろう。
お姉さんはオレが 外国人だったから終始,笑顔で対応してくれたのだ。
優しいんだか人が悪いんだか。。
でもそれがまた恥ずかしかった。
オレは顔から『炎』が出るほど恥ずかしくなってしまい,そそくさと停車ボタンに手を伸ばし, 次のバス停で逃げ降りた。
バスの中から鋭く突き刺すような視線を感じながら,オレは何事もなかったように歩き出し,バスならばたったの10分で着く道のりを50分もかけて歩いて帰ったのだった。
『辞書ばかりを頼りにしていちゃいけないんだなぁ。』と改めて痛切に実感した。
当時は死ぬほど恥ずかしくてネタとしても言えなかったけど,今となっては会心の傑作ネタである。
ともあれ,心地よい秋晴れのマドリーにおける恥ずかしいエピソードでした。
スペイン留学 バスの中での出来事 おわりに
過去の自分が書いた文章と正面から向き合う。
色々と手を入れたいところもありましたが、当時の自分に敬意を払い、敢えてそのままとしました。
作り話にはないリアルさが、上手く伝わってくれればいいんですが。。
語学はやはりその言葉が話されている現場で、自分の体験を通して学ぶと、思い出と記憶の回路が繋がり、本当の意味で身につきます。
この体験を通じて私も実感しました。
ちなみにこの投稿が当時の私のホームページでは最も人気の記事でした。
このブログを読んでいただいた方の中で、誰か一人でも笑顔になってくれたら嬉しいです。
私もこんな面白いエピソードあり、という方はぜひ教えてくださいね!
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それでは、また。